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2008年11月25日 (00:52)

私の人生

零代というのは、受容の時代だった。なにも望まないのに、望む以上のものがやってきた。私は愛された。ひとつの小さな運命に気づかなかった。ひとつの小さな暗闇が、世界を支配した。私は途方に暮れていた。この御しがたい己の無邪気さに。

十代というのは、無知の時代だった。何も知らずに全てを嗤っていた。それでいて絶望していた。絶望しながらスキップしては、若さに怯え、ただ漠然とした不安を抱いていた。感受性は豊かで、些細なことで運命を背負ったと思い、苦悩し、悩み、自問自答を繰り返し、答えのない問いを立て続けていた。

二十代というのは、すべてを冷めた論理的な整合性で保たないと不安な年齢だった。それでいて感情的に、否定的に排他的になり、幻滅を繰り返しては、愛する者さえも限定した。考え方は抽象的な極みに陥り、何事も一般論でしか語れなくなる。ひとつが全てになり、その全てを自分自身によってのみつくれるものと信じては、それをまた破壊しようとさえしていた。なにひとつ作り上げることはできないと、架空世界に逃避した。冒険に繰り出しては、荒波に飲み込まれた。

三十代というのは肯定の時代だった。生命は踊り、宇宙は膨張して、論理を超えた部分で理会することができるようになってきた。今まではわかったつもりになっていただけだった。一方、情に流される危険性も孕むようになってきた。つまりなまじ人の想いや考えがわかってしまうだけに、それを制しようと、説教くさくなることもあった。けれど今まで築いてきた土台は無駄にはならず、それによって新たな大地に踏み込む決意を携えることができた。

四十代は、諦念の時代だった。何もかもが中途半端でバカらしく思えた。今までやってきたことが徒労に終わる気がしたが、それさえももうどうでもよかった。老いと共に無気力感に襲われ、世界はもういつ終わってもいい気がした。それでも重くのしかかる責任感によってのみ、歩くしかなかった。これがかつて思い描いた夢の形なのかも知れない。なぜかといえば生きるしか選択肢はなかったからだ。絶望の果てに、見える希望に縋り付くように、努力は続けた。

五十代は、実りの時代だった。今までの努力が、たてつづけに実った。意図もしないのに、至るところで花を咲かせ、百花繚乱の様相を呈し始めた。もう自分の幸福が、誰かを不幸にすることもなかった。周りの皆は笑顔だった。それは信じていた証明であった。世界は私の自我より、遙かにひろかった。まるで大樹のように、私はそのひとつの枝に実っている、実に過ぎないのだ。

六十代は、自分が何もしなくても、なんでも思い通りになった。物事が右から入って左に出て行くように、世界は忙しく見えた。でもそれでいい。私はただ耳を澄ましていればよかった。心地良い音楽に、心地良い言葉に、心地良い愛に。ただ求められるがままに、手を引かれて、ゆっくりと歩いた。

七十代は、もうなにもすることがなくなった。全てはわかってしまい。悟ってしまった。若い頃は、悟れないと知ることが悟りだなどと知った風なことを考えていたが、こうして普通に生きているだけで、悟れた。全ては川の流れのように、自然だった。それでよかった。無理して堤防を築くこともなかった。無理して壁を壊すこともなかった。やがて私は海に出るだろう。

八十代は、大航海の時代だった。貿易は活発になり、時折、黄金の価値は高騰して、思っても見ない物の価値が高騰した。それは時として、私のかつて捨てた物であったりした。私は舟に乗り、敵艦隊を撃破した。沈没する船を見るのが愉快だった。甲冑を取りそろえて装備して、部下の数人を新たなる世界の開発にあたらせた。動き始めたのだ。新たなる認知への道へ。

九十代は、サイボーグの時代だった。生命は永遠に近い長さを獲得した。磁力によって動力が供給され、血は透明になった。それでも私は死を選んだのだ。

百代は、死の時代だった。私は死んでいた。もう無であるという感覚すら手に入れることができた。私はひとつの稲妻だった。私はひとつの津波だった。私はひとつの入道雲だった。わたしはひとつの宇宙になった。

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